• 中島未来


清々しい初夏の夜、窓を開け、涼やかに部屋に風を通して眠りにつく人、いらっしゃるんじゃないでしょうか。

これは、私が高校時代の友人から教えてもらった話です。

その高校時代の友人は、一風変わった感じのする人でした。肌が白く、クルクルの髪を白いリボンでまとめていた、なんと言うか、西洋のお人形さんみたいな感じの子。

私が進学した学校は、毎年初夏に、山梨にある学校の施設で2泊3日くらいの合宿がありました。彼女と私が同じ部屋のグループだったかどうかは覚えていないのですが、普段学校に通学している時よりも開放的な山の中の合宿で、初めて親しく話すことになったのは記憶しています。

様々な行事の合間の自由時間に数人で雑談をしている時、彼女が合宿に白い小さなぬいぐるみを持っていることに気がつきました。

高校生でぬいぐるみを持ち歩いていることに、私はやっぱり不思議な思いを抱いてしまい、

そんな不躾な思いの恥ずかしさもありましたが、「どうして持っているのだろう」という好奇心の方が勝ってしまい、彼女に

「それ、いつも合宿とかに持ってくるの?」と聞いてみました。

「うん、そう。どこかに泊まりに行く時は必ず持って来るの。お守りみたいに、私を守ってくれるから」「そうなんだ。何から守ってくれるの?」

「うーん、幽霊とかかなあ。」

「・・・・・・」

聞けば、彼女は小さい頃から霊感が強いようで、周りには見えないものなどが見えてしまい、特にどこかに泊まりに行った時に多く目にするんだとか。

ある日の夕方に、家の近くの街灯の下に立っている何かを見たり、横断歩道ですれ違った人が、実は一緒に歩いていたお母さんには見えなかったりということがよくある起こるのだそうです。

そんな訳で、人には見えない何かを目にすることが怖いのか、怖くないのかと言えば、やっぱり怖い。そこで、そのぬいぐるみをお泊まりの時は必ず同行するんだそうです。彼女の話に、私はぬいぐるみを持って来ることにいたく納得してしまいました。

「幽霊が見えるって事はさ、もしかして、この合宿所にもいたりするの?」と他の友人が彼女に聞きました。合宿に一緒にいる立場としては、聞き逃せない質問です。でも、不思議なことに、彼女がどう答えたのかを私は覚えていないのです。みんなを怖がらせまいと 「ううん、ここにはいないよ」とか言ったのか、「えっとね、あそことここに居る」とか答えたのか、全く思い出せないのです。

ただ、彼女が夜にみんなで怖い話に盛り上がっていた時に教えてくれた事は、今でもよく覚えています。

彼女が教えてくれたのはこういうことです。

彼女は一緒に話していた面々に「ねえ、幽霊ってどうやって家に入ってくると思う?」と聞いてきました。

「えー、幽霊でしょ、何でもすり抜けちゃうから、どこからでも入ってきちゃうんじゃないの?」

「まさか、玄関のドアから??」

「やっぱり分からないよ、教えて」

「あのね、幽霊って、開けてある窓とかから入ってくるんだよ。だからね、私は夏でも窓を開けたままでは寝ないんだ」

この話は、私にとっては衝撃的でした。現代の夏はあまりに暑すぎて、エアコンなしでは寝られないし、防犯の観点から窓を開け放ったまま就寝する家は少ないと思います。

ただ、自分の家に限らず、私には夏の夜に開いたままの窓がいくつも思い浮かぶのです。

母の実家のお風呂の天窓、実家の和室にある欄間と同じ高さにしつらえられている窓、

学校の体育館の天井近くにある高い高い窓、駅のトイレの窓や、どこかのマンションの外階段の窓・・・

そのあらゆる「開いたままの窓」から、彼らは入ってくるのでしょうか。

この話を私は彼女に教えてもらってから、一度でも忘れた事はありません。どれほど夜風の心地よい日でも、開いている窓を見ると同時に彼女の話を思い出し、爽快な気持ちで窓を開けたままにすることができないのです。

そして不思議と今まで、この「窓」に関する話を友人達にしたことはありません。怖がらせてしまうからと言うよりは、この話を聞いた事で、開いている窓と向こうの世界が繋がってしまうことを、私自身が恐れているからかも知れません。