• 中島未来

青い男

あなたが学生だった時、合宿などはありましたか?

枕投げや、肝試し、キャンプファイヤー・・・

私が経験したことも、そんな楽しいはずの学生時代の合宿でのことです。




高校生の時、毎初夏の頃に学校の施設で合宿をする行事があった。

山梨県の山中湖近くだったと思う。鉄筋コンクリートの3階建ての宿泊棟と、 食堂やお風呂などが集まる棟があった。

宿泊棟は1階から3階に分かれて、クラスを1グループ7人から8人に分けて、

行動する。部屋割りも同じグループのメンバーだった。

ある年、私が参加していた班は、1階の一番端の部屋になった。

その部屋は丁度建物と建物の影に当たる場所になっていて、部屋に荷物を運ぶために足を踏み入れた時、その部屋の暗さと湿っぽさに「嫌だなあ」と薄ら感じたことを覚えている。

同じ班の友達たちと「なんか、この部屋湿っぽいね、やだねー、あーあ」と嘆き合った。

他の班の部屋を訪ねると、自分たちの部屋とは明らかに違い、カラッとしているし雰囲気も明るい。ガッカリしながらも、合宿は案外忙しい。分単位で動いているうちに、部屋のことも忘れてしまった。

いくつかのレクリエーションと入浴がそれぞれの班ごとで終わり、そこから夕食までの空き時間が自由時間になった。班のメンバーで部屋に戻った時、誰かが「ねえ、こっくりさんやらない?」と言った。

私はそれまでこっくりさんをやったことが無かった。

やったことは無いのだけど、こっくりさんにまつわる怖い話だけは色々知っていた。

本能的には「やらない」を選ぶに越したことはないのに、やっぱり好奇心で「やってみたい」と思ってしまった。

何人かは「えー、怖いよー、やらない方がいいよー」と言っていたけれど、仲間のいる心強さと興味津々な気持ちが勝って、試してみることになった。

五十音と数字と、はい、いいえの真ん中に鳥居のようなものを書いた紙が出来上がった。

誰かが10円玉を用意する。

「じゃあ、誰からやる?」ということになり、名乗り出た4人で

それぞれの人差し指を10円玉に置いた。

そして、なんとなく顔を見渡し合う。

「それじゃあ始めるよ。」自然に誰かがリーダーシップを発揮する。


「こっくりさんこっくりさん、どうぞお越しください。

お越しくださったら「はい」の方に行ってください」


1度目の呼びかけで10縁玉は全然動かなかった。

そこで、もう一度呼びかける。



「こっくりさん、こっくりさん、どうぞお越しください。

お越しくださったら「はい」の方に行って下さい」

みんなで指先を凝視する。

すると、10円玉がずずっズズズっと「はい」の方に動き始めた。

一瞬で恐怖がその場を支配する。

「ねえ、動かしてる?」

「私は動かしてないよ、誰か動かしてる?」

「動かしてない」というやり取りが始まる。

誰の指にも「一緒に10円玉に指を置いている誰かが動かしている」という感覚と疑念があるようだった。

誰が動かしているんだろうと互いを疑いつつ、「次の質問してみようよ」と

いくつか質問をしたように記憶しているのだけど、質問の内容はよく覚えていない。



この間、10円玉はスムーズに動き、質問に対する答えを導き出していた。


不思議な空気感の時間をしばらく過ごしていたのちに、周りで傍観していた友人が

「ねえ、そろそろ夕食の時間になるよ」と注意を促した。



「そっか、じゃあ、そろそろ帰ってもらおう」。




「こっくりさん、こっくりさん、今日はどうもありがとうございました。

お帰りください」と呼びかける。

すると


10円玉がゆっくりと「いいえ」の方に動く。

「いいえ」という返答を見て、みんな真っ青になった。



「!いいえって言ってるよ!帰らないって言ってるよ!」と誰かが心配そうに声を上げる。

「ねえ、もう一回お願いしようよ。


「こっくりさん、こっくりさん、どうかお帰りください。」




しかし、10円玉は「いいえ」から動かない。



今までは感じていなかった恐怖が襲ってくる。


「どうしよう、どうしよう!どうする?」

みんなは怖さと、食堂に行かなければいけない現実の間で

パニックになり始めた。

そして、この状況をどうしたらいいのだろうと、みんな無言で固まってしまったその時、

10円玉が動き始めた。

10円玉に指を置いている私たちも、周りで見ていた友人たちもびっくりした表情で

その動きを凝視する。



10円玉はゆっくりと言葉を紡ぎ始めた。

一文字一文字を、誰ともなく声を上げて読み上げる。

こ・・・・・・・・ろ・・・・・・・・・す・・・・!!




「!!!!!!」

「ねえ!殺すって動いたよ!どうしよう!こっくりさん、怒ってるんだ!」

「どうしよう、どうしたら許してくれますか?」

「怖い」

「こっくりさん、ごめんなさい。お願いします、どうかお帰りください。お願いします!」

恐怖に取り憑かれながらも、みんなで一生懸命帰ってくれるように何度もお願いした。


いいえ・・・・・・いいえ・・・・・・10円玉はいいえしか答えない。

みんなのパニックが頂点に達しようとしたその時、

10円玉が不思議な動きをして、

自ら鳥居の上で止まった。



しばらく、その場は静まり返ってしまった。

埒が明かないと感じた誰かが恐る恐る聞いてみる。

「こっくりさん、お帰りくださいますか?」






「はい」と答えて

そしてまた、鳥居の上で10円玉は止まった。

その瞬間を待ち構えたように、4人は一斉に指を10円玉から離した。

「怖かったー。帰ってくれないかと思った。」

「でも、殺すって言ってたよね。」

「言ってた。」

「言ってた。」

「でも、帰ってくれたから・・・大丈夫だよね。

もうこっくりさんやるの止めよう!」

夕食のアナウンスが入り、私たちは10円玉と紙を片付けて食堂へ向かった。

夕食後から消灯時間まで、仲の良い友達の部屋をみんなが行き来する。

私が通ったのは女子校だったからガールズトークは尽きないし、階の違いもお構いなしに、みんなバタバタと動き回っていた。

そして消灯時間になり、一応、それぞれが自分の部屋へを戻る。私も自分の部屋へと戻った。部屋に入ると班の友達の何人かが仲の良い友達と部屋を入れ替わったようで、私の隣に違う班の、バンドを組んでいる仲良しの友人が寝ていた。

「ねえ、ここ寝てても大丈夫かな?」

「大丈夫だよ、多分、違う部屋で寝てると思うし、先生も電気点けないと思うから

人数だけ合ってれば平気だよ」

そこで、私と友人はしばらく暗がりの中で楽しく話をしていたのだけど、知らないうちに寝てしまっていた。



朝、目が覚める。私がごそっと動いたのに気がついたようで、隣の友達が話しかけて来た。

「ねえ、昨日の夜ね・・・凄い怖いことがあったの・・・・」

「どうしたの?」

彼女の話はこうだ。

眠りからふっと目覚めた時、まだどこかの部屋でドアが閉まる音がしたり、誰かが廊下を行き来する音がしていた。まだ、そんなに遅い時間でもないようだ。

少し右側に傾けていた身体を仰向けにしようとした時、身体が動かせないことに気がついた。金縛りにかかっているようだ。

右隣には私が眠っている。それで少しだけ安心した。

身体や顔は動かせないけれど、目を動かすことは出来る。

少し目が慣れてきた時、部屋をなんとか見渡そうと視線を上の方に動かした。 その時、「それ」に気がついた。

天井近くに何か浮いている。青っぽい何か。

よく見ると、自分の方に覗き込むような角度で浮いているようだ。

顔が見える訳ではないけれど、なぜだかその青い存在が人で、

男だというのが分かった。

その瞬間、物凄い恐怖が襲ってきて、何とか隣にいる私を起こそうと身体を動かそうとしてみたり、声を出そうとしてみたり奮闘したそうだ。

それでも、私は起きなかったという。

怖さと極度の緊張感で、ギッチリと目を閉じている間に、彼女もまた意識が遠のくように眠ってしまったそうだ。

そして、朝が来て、私に昨夜起きたことを話してくれているのだ。

「すごく怖かったんだよ。誰も起きてくれないし、本当にどうしようかと思った。」

「そのこと、先生に話してみよう」ということになり、早朝のラジオ体操が解散になった時、担任のところに相談に駆け寄った。

そして正直に、昨日部屋でこっくりさんをやったこと、なかなか帰ってくれなかったこと、殺すという文字が示されたことなどを話した。

「お前たち、もうそんなことをしたらダメだぞ。部屋は全部使用されているので変えることは出来ないが、とにかく、話は分かった。何かあったら、また言いに来なさい」と告げられ、私たちは部屋に戻った。

夜に1人目覚め怖い思いをした友人は、こっくりさんも一緒にやっていなかったし、

本当はその部屋で眠るはずでもなかった。。

こっくりさんを試したことで、私たちはもしかしたら近くに浮遊していた何かを呼び込んでしまったのかも知れない。

その後、合宿の間には、その部屋で何かが起こることは無かった。

合宿を終え東京に戻った時、私は色々調べてみた。

彼女が言っていた「青っぽい人影」。霊にも等級というか、階級があるようで、

青っぽい色の霊は低級の霊だという。

怖い思いをさせたり、びっくりさせたりするような、そんな特徴があるとか。

あの時彼女が見たものは、低級の霊だったのだろうか。

高校を卒業してからあの合宿所には行っていないので、未だに合宿場所が同じところかどうかは分からないけど、相変わらず1階の一番端っこにあるあの部屋は、

陽の光が届かずに、ジメジメと湿っぽく暗いままなのかも知れない。